みなさん、不動産会社にだまされちゃだめです!
情報に踊らされる、情報弱者にはならないでくださいね!
コラムを読む学生時代に起業して、ビジネスを成長させながら自らの感性を磨いてきたMさん。30代で次のステージにレベルアップしようというタイミングになり、ひとり暮らしの今の自分にとって等身大かつ最高と思えるライフスタイルを描いてみたいと考えました。
そして、エリアの価値に対してリーズナブルで程よいサイズ感の中古物件を探して購入し、リノベーションして住むというスキームに至ったのです。
墨モルタルの土間に合わせて玄関扉の内側も黒で塗装。玄関横からバスルームに続く白い家具の中には、トイレ、キッチン収納、洗濯機置き場などが隠されている。
Mさんの条件は、自分が”好き”と思える街であること、いろいろな視点で将来のことを考えて”投資的価値”のある立地であること、この2つは絶対で、あとはとにかく”物件が箱として面白い”と思えるかどうか。
この3つさえ押さえておけば、後々後悔することなどないだろうし、仕事がどんなに忙しくても毎日が楽しくなるはずだし、新しい仕事に挑戦しようが、結婚して子供ができようが、海外に移住したいと思うことがあろうが、チャンスでもピンチでも、いつでも売ったり貸したりして新しいライフスタイルにチェンジすることができます。これは、”今ここ”の自分らしさを全開にした暮らしを楽しみながら、常に”自由”であるための絶対条件です。
ステンレスとスチールとガラスで造作したキッチンと洗面台。バスルームに掛けてあるパネルで天板をつなぐことで、作業スペースをより広くすることも可能。
かくして、仕事と遊びが直結する東京のど真ん中に、築37年の中古マンションを購入してリノベーションするという、Mさんの住まいづくりプロジェクトが始まったのです。
特に、”物件が箱として面白い”という条件にこだわりがあったのは、Mさんが海外のリゾートやブティックホテルに滞在するのが好きだったことに起因します。様々な国で、気持ちを高揚させてくれるインテリアに触れてきて、それと同じような豊かさを感じる空間で暮らしたい、という具体的なイメージがあったからです。でも、日本の賃貸や分譲で売られている物件で、気持ちを高ぶらせてくれるものはありません。
だから、どちらにしても内装は全て壊してスケルトンからリノベーションしたかったので、物件が箱(スケルトン)として魅力があるもので、「なんか面白そうだな~」と創作意欲がわくことで良い出会いになると考えたわけです。
キッチンに立つと部屋の全体が見渡せる。リノベーションによって全く違う空間になったが、壁がないことで風と光の通りがよくなり、居住の快適性が向上した。
Mさんが購入した物件は、住戸のある場所が斜線制限という法規にかかっていて、外観をななめに削ったようなかたちをしているので、中に入ると外壁側の壁が内側に傾いています。そのため、平面図的にみた59㎡という面積の割にはかなり圧迫感がありました。実際に、通常の59㎡の住戸と比べて、平面的にみた床面積は同じですが、立体的な空間でみたときの体積は少ないのです。
でも、その圧迫感がある斜めの壁をうまく活かせば、忙しなく流れる東京の時間の中で、落ち着いた屋根裏部屋のような別世界にいるような気分になるんじゃないかと、”物件が箱として面白い”という条件に当てはまってしまったわけです。都心の屋根裏部屋をブティックホテルに改装するというコンセプトが、ここから生まれました。
斜めの壁の窓が全て連続的につながって見えるようにしたこと、リビングの床とつなげて同じ高さでウッドデッキを設置したことで、空間の広さと抜けが生まれた。
そこで、既存の間仕切り壁で細かく仕切られていた間取りを、全ての壁を排除した広めの1Rに設計し直しました。そうすることで、ななめの壁に横並びになっている窓がパノラマのように連続的に全てがつながって、空間に広がりと抜けをもたらすと考えました。
実際、屋根裏部屋の天窓のように自然に街に溶け合う空間になって、この箱(スケルトン)の面白さが出せたと思います。なぜ、分譲時からこの間取りで売り出さなかったんだろう? というくらい、本来の箱の持つポテンシャルを引き出した設計になったのではないでしょうか。
スチールのハンガーを広い玄関土間の天井に設置。可動式の白い収納と、ベッドコーナーの床下収納にも衣類が入る。可動収納の配置場所で様々な空間づくりが可能。
また、ただ1Rにしただけではメリハリがありませんし、バスルームなどもできる限り壁を作らないで広い空間を確保したいという要望があったので、床の高低差で空間を分けることを考えました。
大きくは、墨入りモルタルの土間エリアと、浮造加工したウォールナット無垢材が敷かれたフローリングのエリアに分かれますが、フローリングのエリアにはさらに1段上がったコーナーがあって、そこがベッドスペースになっています。
ベッドスペースの床下には、土間側からアクセスできる引き出し収納と、上部からアクセスできる床下収納を設計しました。この寝室は、まさにドンピシャで屋根裏部屋のイメージです。
さらに、広い玄関土間には可動式の収納を設計して、そこに衣類などを納めるようにしています。可動式にすることで、寝室と土間とリビングを分けるフレキシブルな間仕切りとしても機能することを想定しました。
キッチンとバスルーム、シャワーブースは、土間でつながった場所に機能的にレイアウトした。ガラスで囲われたシャワーブースの床にはウッドデッキを設置。
Mさんの希望だった上質なマテリアルにこだわったキッチンやシャワーブースなどのインテリアと、ラフな躯体コンクリート現しの背景の表情が調和するように、現した躯体の一部に和紙を貼ったように上品な風合いが出るようにAEPのマスキング塗装を施しています。
最後に、この空間の息抜きにもなっているのが、広めのバルコニーに敷かれたウッドデッキです。このスペースとリビングを床続きにしたからこそ、59㎡がより広く感じられることになったはずです。
象徴的で存在のある柱と梁は解体して出てきた躯体そのままを鑑賞したかったので、あえて仕上げず、これを軸にして部屋のデザインを検討していった。
【床】玄関土間・キッチン・洗面・バスルーム・トイレ:墨モルタル金コテ仕上げ/シャワーブース:ウッドデッキ/リビング・ベッドコーナー:アジアンウォールナット(無塗装、浮造加工)/バルコニー:ウッドデッキ
【壁・天井】躯体柱・梁:躯体現しのまま/玄関土間・ベッドコーナー:躯体現しの上にAEPマスキング塗装(一部躯体現しのまま)/トイレ・リビング壁:AEP塗装/リビング天井:躯体現しの上にAEPマスキング塗装/キッチン・洗面・バスルーム〜シャワーブース壁:墨モルタル金コテ仕上げ/キッチン・洗面・バスルーム〜シャワーブース天井:VP塗装
【防水】キッチン・洗面・バスルーム〜シャワーブース:FRP防水
【キッチン】天板:ステンレスバイブレーション仕上げ/フレーム:スチール黒皮にクリア塗装/幕板:カラーガラス/換気扇フード:ステンレスミラー歪み加工
「都心の屋根裏部屋をブティックホテルに改装?」麻布十番Mリノベーション(2014/10 text by kido)