世田谷区を中心に中古マンションを探してリノベーションを考えていたご夫婦が、最終的に、渋谷区の高級住宅地に築40年のレトロでコンパクトなマンションを探し当てリノベーションして住むまでのストーリー。
彼らのストーリーは山あり谷あり紆余曲折を経ていますが、住まい探しの経験が、自分たちの生き方を探す経験でもあったということで、非常に示唆に富む事例になっているはずです。
例えば、なぜ、当初は考えていなかった地域で中古マンションを探すことにしたのか?なぜ、当初の目標であった無垢のフローリングの床が、ただの安物の下地用の合板になってしまったのか?そういったことを、全て妥協と考えずに、前向きな気持ちでとらえて昇華させたからこそ、資産としても豊かで、だれが見ても素敵なインテリアだと共感する、梶原邸が出来上がったのです。
大型商業施設が集積した渋谷の街の裏には閑静な超高級住宅街が展開している…
物件立地エリア:渋谷周辺エリア(種別:山手線南部の都市型住宅地)
街のタイプ分析:物件価格の相場が高く賃料の相場も高い、いわゆるブランドエリア
中心駅:JR線、東京メトロ銀座線・半蔵門線、京王井の頭線、東急東横線、東急田園都市線「渋谷」駅
周辺の地域特性:いまは若者の街のイメージが強い渋谷だが、代々木公園から代官山にかけての山手通り沿いには高級住宅地が展開する。北から、富ヶ谷、神山町、松濤、神泉町、南平台町、猿楽町、代官山町とお屋敷街がつづく。特に松濤は渋谷区でも屈指の高級住宅街。また南平台町も古くからの屋敷町である。猿楽町の名は、鎌倉時代に源頼朝がこの地で猿楽を開いたことに由来し、旧山手通り沿いにヒルサイドテラスが建ったのをきっかけに、猿楽町から代官山町周辺はファッションの街になった。富ヶ谷、上原なども良好な住宅地として評価が高い。
生活利便性:渋谷駅が徒歩圏内にあるので、近くでそろわないものは何一つないので利便性は高い。物価は高いものの、周辺エリアに庶民的なスーパーマーケット等も存在するので、広い範囲で散策すれば様々なライフスタイルに対応出来るはず。
専有面積:57.73㎡(壁芯)53.84㎡(内法)
構造:RC造・7階建て
築年数:S.45年築(築41年)
権利:所有権
所在階:5階
主採光:南東北(三方向)開口
間取り:既存の2DKを→【1R】にリノベーション
床 :ラーチ合板(針葉樹の木材でつくった合板で節があり主に下地用に使われる建築材料)をそのまま仕上げに使い、植物性オイルを塗布
壁 :お施主さんといっしょに漆喰塗りをDIY施工
天井1:既存天井を撤去して駆体コンクリートを現したまま
天井2:ダウンライト(照明器具)を仕込んで低めに造作した天井については、壁と同じく漆喰塗りで仕上げ
浴室・トイレ:床は一般的なタイルではなく(耐水性の)コルクタイルを貼り、壁は墨入りモルタル(セメント)を均して真っ黒に仕上げました
キッチン:完全オリジナル設計のシンプルなキッチン。
浴室のこだわり:浴室とトイレにガラスの仕切りすらないこの家。間仕切りを一切つくらずに、限りなく開放的にすることがメインテーマになりました。
収納のこだわり:収納も極力つくらないようにしたので、完全に扉がついた収納家具は玄関の下足入れのみということになりました。 施主の梶原さんは、引っ越してから2年が経ちますが、収納のない生活が全く苦にならないようです。むしろ自分の好きなものに囲まれて幸せを感じています。
梶原邸物件購入価格:2350万円
梶原邸リノベーション費用:700万円
梶原邸費用総額(購入+リノベ費用):3050万円
新築相場→梶原邸(総額)の比較:50.8%(新築相場の約半値で取得)
同エリア同面積の新築相場:6000万円程度
同エリア同面積の中古相場(リノベーション無):3100万円程度
同エリア同面積のリノベーション済み中古の相場:3600万円程度
同エリア同面積の賃料相場:月額23万円程度
*(参考)ファミリータイプ(80㎡)中古マンションの標準価格:6100万円(賃料:月額31万円)
相談を受けた当初は、世田谷区を中心に、目黒区、杉並区といったエリアで広さ50㎡以上の中古マンションを探して、リノベーションして住みたいというのが、梶原さんのご要望でした。特に、世田谷区の地域性にある独特の「空気感」といいますか、東急世田谷線の雰囲気とか、都心なのになぜかのどかなあの感じに惹かれている…という感じがあったので、世田谷区を中心にリサーチを開始しました。
しかし、世田谷区というのは、ファミリー層に人気のあるエリアです。幹線道路から外れた閑静な住宅地にあるのは、70㎡以上のファミリー向け永住型マンションがほとんどです。もちろん、予算の条件さえ合えば、どんなに広くてもそれにこしたことはないのですが(笑)…管理の良さ(資産価値を決める要素)を踏まえると、購入に値する物件に出会える確率はかなり低い。
そして、やはりといいますか…広さと予算の条件を当てはめると、市場にデータとして出てくる物件は幹線道路沿いばかり(つまり、今回、求めていた「空気感」をはらんでいない)でした。
環七通り沿い、環八通り沿い、国道246号通り沿い、甲州街道沿い、井の頭通り沿い…
そういったところに建つマンションは、どうしても、梶原さんの住んでいるイメージが出来る感じではなかったのです。当然、本人もピンとこない。
このままでは、ご要望のエリアで、梶原さんのイメージする住環境の物件はちょっと厳しいかな~。もちろん予算的なことを外すわけにはいかないので、オーソドックスにもう少し都心から離れて探すべきか、正直、迷いました。
そこで、梶原さんと今までヒアリングを重ねてきた要素を整理して、ライフスタイルや価値観のもっと深いところにあるものを探ってみました。その要素とは…
・一生住むわけではない
・将来は自己所有のマンションを運用し、
田舎暮らしをしたい
・古くても味わいのあるものが好き
・経年を楽しめる素材が好き
(木、石、スチール、など)
・緑が多いところがいい
・のんびりした感じが好き
・利便性は二の次
こういったことを整理していくうちに、それなら世田谷区にこだわらなくても、むしろ、もっと都心に合致する場所がありそうだ!と、ピンときました。
そう。渋谷区と港区であれば、70㎡以上のファミリータイプだけでなく、50㎡前後の運用しやすいサイズのマンションでも、管理の良い状態で維持されている可能性が高い…そこで、今までのリサーチエリアに、渋谷区と港区を加えて見ていくことにしました。
世田谷区よりも、都心から離れるという考えはもはやありません。なぜなら、将来、田舎に住みたいと考えている梶原さんにとって、長期での資産運用性というのが非常に重要だと考えたからです。
そうこうしているうちに、渋谷区で面白い物件データを見つけました!
これだ!これは梶原さんのためのマンションに違いない!
双方が引き合いそうな物件を見つけた時の感覚は、うまく言葉には言い表せないですが、電撃が走るような感覚でかなり興奮します。興奮冷めやらぬまま、すぐに自転車で現地まで見に行きました(スマサガ不動産の事務所から自転車で行ける距離だったので…笑)。
マンションのエントランスに着いたときも、いい感じにレトロな風合いに、「おおー」「これは梶原さん好みだ」とパシャパシャと共用部の写真を撮りまくる興奮度合い。そのとき、管理人さんに「あなた誰?何してんの?」ととがめられてしまいましたが(苦笑)、それも心の中では、「管理人さん厳しいってことは、管理もちゃんとやってそうだ。いいよ!いいよ~!」とプラス加算。
さっそく梶原さんにご報告。すぐに現地を見に行く段取りとなりました。
ただ、ひとつだけ懸念していた要素があって、それは、売りに出ていた部屋の広さが40㎡台しかなかったこと…。しかし、そのネガティブ要素を超えてオススメできるマンションでしたし、専用庭があるので、間取り変更のリノベーションプランによっては開放感のある部屋に再生可能だと考えました。そこで、プランの可能性をお話しするために、設計のスタッフも同行しました。
そして、梶原さんもその時開眼したのです。
「…そうか!部屋が狭いなら外にでかければいいんだ」「周辺環境に、公園も、グラウンドも、緑も、いっぱいある地域なんだから」「もっと、外とつながれば良いじゃない」…そう考えることが出来たので、当初の考えよりもコンパクトな40㎡台のマンションですが、真剣に検討し、物件の管理状況の調査等もしっかりしたうえで、購入決断に至りました。
そして、そのまま、申し込み~契約へとステップしていったのですが…ここで、どんでん返しがあったのです。
実は、梶原さんのお父様は一級建築士なのですが、やはり中古マンションは耐震性やメンテナンスの状況等、専門家として不安な点も多くあるので、手放しで賛同するわけにはいかないという話があったのです。
であれば、このマンションに資産性についてスマサガ不動産がどう考えているか、詳しく理解していただくための資料を作成したり、実際に現地を見てもらって、管理や耐震性に問題がないか、ご本人にも確認していただこうと考えました。そう。じっくり話し合って、家族の賛同が得られてから正式に契約したかったのですね。
しかし、マンションを売る側の大手不動産仲介の担当者の考えは違いました。「とにかく、今月中に契約してくれないと困ります」の一点張りで、一日でも早い契約日の設定を急かされながら、物件の調査等への協力は一切してくれません。
結局、「売り主側の業者さんにこういう態度で急かされるなら…。やっぱり、しっかり家族の賛同を得てから行動したいので…」ということで、残念ながら、この物件はお流れにすることにしました。
それで、物件探しはしばらくストップしたのですが、梶原さんはあきらめずにお父様への説得と説明をつづけ、最終的には、賛同していただけるようになったのです。でも、その頃には、あの物件はすでに売り止めになっていました…
でも、奇跡は二度起こるんですね!
「例のマンションの5階角部屋が売りに出てます」と梶原さんのほうからメールが来たのです。
情報を確認してみると確かに出ていました。価格も予算に見合ってるし(ただ、当初の設定よりリノベーションの予算を削る必要が出てきましたが…それも、後々、面白いドラマを生みます)、広さも57㎡あり申し分ない。そして角部屋の3面採光。
二度目の電撃です!
現地を見に行ったときも、梶原さんとスマサガ不動産のスタッフは、かなりの大騒ぎで「うわー。これはリノベーションしたらものすごい良くなるよー」とか盛り上がっていたのですが(笑)…なぜか、売り主側の業者さんの反応は、「へえー。そういうもんですかね?ふーん」みたいなクールな反応でした。
前の業者さんとは違って、契約を急かすイケイケの営業さんではなくて良かったのですが、「この物件がもっと良くなる」ということに関しては、あまりピンとこないようで、盛り上がっている私たちの横でポカンとされていたのが印象に残っています(笑)。
で、ここはもう、そのままうまく契約出来て、購入に至ることが出来たというわけです。お父様も見に来ていただいて、「うん、これならいいね」と言ってくださいましたよ。
さて、ここからリノベーションの設計が始まります。
スマサガ不動産では、物件価格とリノベーション費用を合算して、購入リスクと資産価値がどうなるかを計算します。
最終的にお客さんのために良い財産をつくるには、物件価格が高すぎてもダメ、リノベーション費用をかけすぎてもダメ。投資バランスを最適に出来るように、物件探しの段階から、不動産の専門家と、建築設計の専門家がいっしょに知恵を絞って、どのような予算組みをするのが最適かを考え、お客さんにアドバイスします。
で、梶原邸では、物件があまりに素晴らしい素性のものが見つかったので、リノベーション費用を若干削らなければ、トータルでの予算組が合わなくなりました。なので、間取りも、使う素材も、出来るだけシンプルに、ただし、配管など交換できるものは全て交換する。設計の最終目標はそうやって設定されました。
ただ、シンプルにとはいっても、実は、それは簡単なことではないのです。人はそれぞれ、今まで生きてきたストーリーの中でしか生活のイメージが出来ませんから、梶原さんと設計者の息もなかなか合ってきません。設計側で、何度も何度もプランを描き直すのですが、その度に、「あー、ここはやっぱりこうなっていたほうがよかったですね」という感じで、なかなか先に進めないのです。いつも思うのですが(苦笑)…シンプルっていう言葉こそが、もっともシンプルでなく、人によってシンプルの定義があまりに違いすぎて。まあ、なんというか、それが楽しいのですけれど(笑)。
でも、梶原さんは普通の人とは違いました。設計の途中で何かを開眼したらしく、ある時点から、「正直、お風呂をガラスで仕切るというのも圧迫感がありますよね」「シンプルというなら収納もなにもつくる必要はなくて、自分の好きなものに囲まれて暮らせるのがいいんじゃないか」と、自分なりの定義を持ち始めたのです。おそらく、もともと自分の中にあったライフスタイルの感性があふれてきたのだと思うのですが…
そこから先はスムーズでした。空間はとにかく開放させて、素材も、当初のこだわりだった床の無垢フローリングはやめて、ラーチ合板という通常は下地に使うためのラフなもので済ませたし、そういうのがどんどん部屋の味として結実していきました。
そして、梶原さんは、住みながら自分とともに成長してくれる、理想の「ゼロ地点」の家を手に入れたのです。つまり、未完成であることが自分らしいという、今時点でのゴールです。